今月の推薦図書

たとえば君(きみ) 四十年の恋歌

私が推薦する河野裕子・永田和宏著『たとえば君 四十年の恋歌』の作者河野裕子さんと永田和宏さんはご夫婦です。ふたりを出会わせたのが歌なら、交際中も結婚後もふたりを結びつけて来たのも「歌」でした。河野裕子さんは中学時代のある国語教師に「河野は短歌がいいね」と言われてから俄然やる気になり、高校に入ってからは積極的に新聞、雑誌に投稿を始めたそうです。私自身も小学4年の担任の言葉がきっかけで書道塾に通い始めましたが、改めて教師の何気ない一言の影響力の大きさを感じます。さて、ふたりが出会った頃の21歳の河野さんの歌「たとえば君 ガサッと落ち葉すくふように私をさらつて行つてはくれないか」この歌はのちに河野さんの代表作のひとつになりますが、何ともいえない恋の切なさ苦しさが伝わってきます。病院のベッドに寝ながら横にあるものなら何でも、ティッシュの箱や薬袋に書きつけた中の最期の歌は「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が」下の句が美しくも悲しい・・・

妻が亡くなってから永田さんが読んだ中の二首。「女々しいか それでもいいが石の下にきみを閉じ込めるなんてできない」、「わたくしは死んではいけないわたくしが死ぬときあなたがほんたうに死ぬ」高村光太郎の「千恵子抄」を彷彿させる語調も魅力的です。あなたもこの「四十年の恋歌」を読んだらきっと、生涯連れ添うと決めた人との出会いに憧れると思います。現在、永田さんは66歳、歌人、細胞生物学者、京都大学名誉教授。

出版社文藝春秋