今月の推薦図書

死者の奢り

大江健三郎の『死者の奢り』という作品との出会いは、他の作家の作品との出会いまで遡ります。高校3年の時、国語の授業で阿部公房の『赤い繭』という作品を読み、その不思議な世界に引き込まれ、関連図書といしてカフカの『変身』を読みました。そのような不思議な作品を探していた中での出会いだったと記憶しています。現代の高校生がどのような文学を好んでいるのか、また、心の中がどのようなものであるか、実はみなさんと一緒に過ごしていても本当の部分を知ることはできません。ならば、自分の高校生時代はどうだったのかというと、振り返ってみても、思春期の暗闇の部分しか思い出すことができません。もう30年以上も前の話です。社会の状況も全く異なります。だから、物事の感じ方もきっと異なるでしょう。けれども、同じ17歳、18歳の若者の感性に少しは通じるものがあるのではないかとも思います。『死者の奢り』の冒頭部分に驚き、作品に引き込まれます。高校生という時期にできれば出会っておいてほしい作品としてこの小説を推薦します。