今月の推薦図書

からくりからくさ

樹々の緑が色濃くなる7月になりました。私が今月おすすめするのは、そんな植物を含め、様々な生命を感じることのできる1冊、梨木香歩著『からくりからくさ』(新潮社)です。題名の通り、唐草模様のように様々な話が散りばめられており、そのエピソード1つ1つに、命の温かさや優しさが織り込まれています。主人公が染物をする場面が作中には何度も出てくるのですが、その植物の、細やかで柔らかな描写の中には、しっかりと生命の息吹を感じることができ、美しく、それと相反するような不気味さも持ち合わせているという不思議な話です。物語は主人公の祖母が亡くなるところから始まります。主人公はかつて祖母が住んでいた古い日本家屋で、3人の女性とシェアハウスをすることになります。それぞれに闇を抱え、悩み、絆を深めながらゆっくりと、目に見えない糸でつながっていく。そんな共同生活を送る4人の中心には、主人公の大切にしている市松人形、りかさんがいて、この人形はなんと人間の心が分かるというのです。優しい雰囲気の中で唯一、異様さを放つりかさんの存在は非常に謎めいていて、その謎がより読者をストーリーの奥深くへと誘います。登場人物がほとんど女性であり、表現も女性的ですので、もちろん女性の方は多くの共感を得られると思いますが、性別に関係なく読んでほしい本です。読んだ後、きっと温かいものが心に残ることでしょう。 

出版社新潮社