今月の推薦図書

六千人の命のビザ

今月の図書部のおすすめ本は、『六千人の命のビザ』杉原 幸子(大正出版)です。「領事の権限でビザを出すことにする。いいだろう?という問いかけに、あとで私たちはどうなるか分かりませんけど、そうしてあげて下さいと同意した。」夫婦だからこそ知り得る実情がここにあります。「苦悩の末、外務省の訓命に反し人道上どうしても拒否できない。受給要件を満たしていなくても独断で、現地退去する日の列車が走り始めるまで通過査証を受給し続けた。」組織・体制と人として思い挟まれつつも「人間として正しいこと」を貫いた意志の強さが感じられます。その後の苦労や命令に反したことへの非情な仕打ちなどの緊迫感や虚脱感さえもが、夫人の眼から見たからこそ第三者が記したものとは次元の異なる身近なものとして感じられるのが本書の特徴だと思います。数十年後、東日本大震災で危機に直面した日本に、いち早く世界各地に移民した多くのユダヤ人たちから援助の手が差しのべられました。その声明の中に「今こそ数十年前の杉原の恩義に報いる時」との言葉あったのも頭の隅において本書を読んでみると、また違った感じ方が出来るのではないでしょうか。

推薦者  図書部 額賀 章光 先生

出版社大正出版